エンジンオイルの深層パラメーター:HTHS粘度(高温高せん断粘度)とVII(粘度指数向上剤)せん断劣化の真相
以前の《エンジンオイル性能パラメーターまとめ》で、「HTHS粘度こそが高回転保護と省燃費のトレードオフを決定する指標」であり、「粘度指数(VI)単体には品質の参考価値がない」と解説しました。
しかし今でも、「同じ 5W-30 なのになぜ走りのフィーリングが全く違うのか?」「なぜ一部のオイルは \(2000\) kmまでは静かなのに、\(3000\) kmを超えると急にガサツなエンジン音になりフケが悪くなるのか?」と疑問に思う方は少なくありません。その核心にあるのが HTHS と VII です。

一、HTHS粘度:油膜が破断するかを決める真の指標
オイル缶に書かれた 5W-30 は、\(100^\circ\text{C}\) での静的な動粘度を表しているに過ぎません。しかしエンジンが高回転で回っている時、ピストンリングとシリンダー壁の間の温度は \(150^\circ\text{C}\) に達し、猛烈な機械的引き裂き(せん断応力)にさらされています。
HTHS(High Temperature High Shear)粘度は、\(150^\circ\text{C}\) の高温かつ猛烈なせん断下で残る本物の油膜の厚さ(単位:\(\text{mPa}\cdot\text{s}\))を測定した数値です。この指標により、同じ 5W-30 でも全く異なる2つのグループに分かれます:
| 5W-30 分類 | HTHS 基準値 | 代表的な規格 | 特徴と主な適合車種 |
|---|---|---|---|
| 低HTHS (薄油膜・省燃費型) |
\(2.9 \sim 3.1\) | API SP / SQ、ILSAC GF-6 / GF-7 ACEA A5/B5、ACEA C2 |
レスポンス良好、フケ上がりが軽く最高レベルの省燃費。 国産車(日本車)、アメ車、ハイブリッド車に最適。 |
| 高HTHS (厚油膜・保護重視型) |
\(\ge 3.5\) | ACEA A3/B4、ACEA C3 MB 229.5 / 229.51 / 229.52 BMW LL-01 / LL-04、VW 504/507 |
油膜が極めて強靭で高負荷時の耐摩耗性に優れる。 欧州ターボ車、クリーンディーゼル車に必須。 |
オイル選びの注意点: 国産のNA乗用車に
ACEA C3(\(\text{HTHS} \ge 3.5\))を入れても壊れませんが、吹け上がりが重くなり燃費が悪化します。逆に、\(\text{HTHS} \ge 3.5\) を指定する欧州ターボ車に省燃費用のAPI SP / ILSAC GF-6(\(\text{HTHS} \approx 2.9\))を入れると、高負荷時に油膜が耐えられずカムシャフトやシリンダー壁の異常摩耗を招きます!
二、VII(粘度指数向上剤):3,000kmで劣化を感じる元凶
オイルスペック表の VI(粘度指数)が高いほど高品質とは言えない 理由は、マルチグレードオイル(5W-30 など)の製造方法にあります。
マルチグレードオイルを作る際、メーカーはサラサラなベースオイル(冷間始動用)に、VII(Viscosity Index Improver:粘度指数向上剤) という高分子ポリマー(分子のバネのような鎖)を添加します:
- 低温時:ポリマー鎖は丸まって縮み、低温でのサラサラな流動性を妨げません。
- 高温時:ポリマー鎖が網のように大きく広がり、ベースオイルの粘度を補って30番や40番の粘度を作り出します。
「せん断劣化(Shear Down)」とは?
オイルがタイミングチェーン、オイルポンプギア、カムシャフト、ピストンリングの間を通過する際、金属ギアがハサミのように働き、広がったポリマー鎖を物理的に真っ二つに切断してしまいます!
- 安価なオイル(粗悪なベースオイル+VII大量添加):カタログの見栄えを良くするため(例:\(\text{VI} > 190\))、安価な線状ポリマーが大量に使われます。交換直後は静かですが、\(3000\sim 5000\) km走るとポリマーが切断され、元のサラサラな油に戻って粘度とHTHSが急落します。これが「オイルの劣化・ヘタリ」の正体です。
- 認証取得の高級オイル:熱で粘度が落ちにくい高性能な PAO / GTL 合成油 をベースにすることでVIIの添加量を最小限に抑え、せん断に強い星型ポリマー(Star Polymer)を採用しているため、\(10000\) km走っても粘度を維持できます。
三、失敗しないオイル選びの3大結論
- まず愛車の「HTHS陣営」を確認する:
- 国産車・アメ車・HV:低フリクションな省燃費規格
API SQ / SP、ILSAC GF-7 / GF-6、ACEA C2(\(\text{HTHS} \approx 2.9\))を選択。 - 欧州ターボ・ディーゼル車:強靭な油膜の
ACEA C3またはA3/B4(\(\text{HTHS} \ge 3.5\))を選択。
- 国産車・アメ車・HV:低フリクションな省燃費規格
- 劣化を防ぐなら「欧州自動車メーカー認証(Approvals)」を確認する:
MB 229.51/229.52、VW 504/507、BMW LL-04などの正式認証を取得したオイルは、過酷な高圧インジェクターせん断試験(Stay-in-Grade試験)をパスしており、\(3000\) km程度で性能が崩れる心配がありません。 - 高すぎる「粘度指数(VI)」を盲信しない:
一般的な良質
5W-30オイルのVIは \(160 \sim 175\) 前後です。メーカー認証のない無名ブランドで \(\text{VI} > 190\) 以上の数値を掲げるものは、熱・せん断に弱い増粘剤で数値を盛っているケースが多いため注意が必要です。